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“ダメなもんはダメ”の世界へようこそ

小原代表

リスペクト代表取締役 小原です。クリエイターを目指す若者に向けてひと言。

アートは自己満足がゴール。デザインは他者満足がゴール。一見当たり前のこの考えが、時にモノ作りをしているときには忘れてしまうことがある。

 

若かった頃

膨大な調査、論理的な仮説立案、試行錯誤の制作をしたのち、自信満々、十全を期してクライアントに持って行った。モノそのものはもちろん、背景からプロセスまで細部にわたって説明しきった。提案しきった。満足と一発OKに、自信があった。

 

「まぁなんだかよくわかんないけど、ダメだわ」

「一生懸命やったんだろうし、目を瞑って話だけ聞いてたら確かに良さそうな気もする。でも、今目の前にあるこれはダメだ。ダメなもんはダメなんだわ」

 

100時間あまりの時間が、粗大ゴミとして扱われた気分だった。最初、残念を通り越して怒りを覚えた。俺の言ってることが正しいはずだ……。お客さんの言ってることは非論理的だ……。そもそもダメな理由がないじゃないか……。

 

そんな風に一瞬は思ったが、その受け取り方は間違っているに違いないと思い直し、なんとしてもこの人に喜んでもらいたいと、ゼロから作り直した。

“ダメなもんはダメ”

その短い言葉には、妙な納得感と、だからこそやる気にさせる力強さがあった。

 

本当に良いものを、理屈を超えて感情を動かすものを、我々は作っていなかった。いつの間にかモノ作りが「楽しい」から「これで合格点がもらえるはず」という妥協点を探す自分本位な作業になってしまっていた。全てを見透かされたような、ダメなもんに理屈と時間はいらんという深い言葉だと思った。

 

これが正解か? 一歩近づいたと思えば別のアプローチが思いつき、良いモノができたかと思うと、意外と以前作ったものの方が良くみえたり。

 

懊悩、そして隔靴掻痒の日々。答えはなかなか見つからないけれど、これぞモノ作りという毎日だった。

 

再挑戦……問い続けた2週間

再提案にもらった猶予の2週間は、未熟な私たちにはあまりにも短く、あっという間に過ぎていった。ターゲティングから練り直したデザイン趣意書と提案書は、100ページを超えた。

 

再挑戦の日。社長、専務、常務とそうそうたるメンツを前に、「本日は貴重なお時間を頂戴しまして……」と始めたプレゼンは、“ダメなもんはダメ”なおじさん(社長)が即座に制止した。

「これでいい。これで行こう。よくぞ意を得たものを作ってくれました。ありがとう」

拍子抜けはしなかった。きっとこうなるだろうと、本当は思っていた。イイもんはイイのだ。本当にイイものは、語るに言葉は少なくて良いのだ。そう言っていただけると思っていた。

 

2週間、やっていたことはシンプルだ。

 

誰が使うのか。

誰のために作るのか。

誰に喜んでほしいのか。

 

徹底的に「誰?」を問うことだった。どこまでも細かく。どこまでも深く。会ったこともないその誰かのために。

“イイもんはイイ”世界はシンプルでやりがいがある。

一方で、“イイもんはイイ”世界は複雑で苦しい。

 

あなたは何のために苦労をしてまでクリエイターを目指すのだろうか?

手掛かりや情報が極めて少ない状況で答えを出さなければいけないことがあるかもしれない。拘泥して作ったものでも無情で残酷な「ダメなもんはダメ」を浴び続けるかもしれない。納得のできない理由や条件を提示されることもきっと多いことだろう。

 

それでもそれを遙かに上回る喜びが自分自身にあるか、その覚悟があるのか、よく問うてほしい。私がモノ作りと情報発信に身を置く理由はシンプルだ。

 

“イイもの”は、私や会社という存在を離れるからだ。本当にイイものは、作者のものではなく“誰か”のものになる。本当にイイものは、私という存在が無くなっても、時代や距離を軽々しく超えていく。

 

私は未来を思い描いてほくそ笑む。

 

何気なく使っていたモノが「これはおじいちゃんが作ったんだよ」と紹介され、誇りに思ってくれる孫の姿に。

言葉も習慣も違う誰かに、私たちが作ったモノで生活に新しい発見や喜びが届けられることに。

 

“ダメなもんはダメ”の世界へようこそ。

デザインの道へ進もうとするあなたの挑戦は、高みへ高みへと登っても決して頂上の無い世界かもしれない。そしてもちろん、最初からイイものは作れないし、あなた一人では作れない。

 

それでも挑戦するあなたへ。

 

イイものを、生活と共にある一部として残す「使命感」。

チームでそれを乗り越えようという「意思」。

何度ダメだと言われても、常にまだ見ぬ誰かの喜びのために感性を磨き知恵を絞る努力ができるなら、イイものを作ることができたときの喜びは、あなたにとってかけがえのない「価値」だと思う。

 

好きなことでメシを食ってほしい。デザインという手段で、小さくとも価値のある影響力を作ってほしい。

 

シンプルなこれらの問いと覚悟に、自信を持ってYESと応えられる若者を待っています。